本文
令和6年度答申第11号
第1 審査会の結論
本件審査請求には、理由がないので、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により審査請求を棄却すべきである。
第2 審査関係人の主張の要旨
1 審査請求人
処分庁が行った令和6年2月26日付け保護申請却下処分を取り消し、原処分によって生じた損害額に加え、冷房器具の購入代金○○円を加えて支給することを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
民法703条違反・業務妨害及び最高裁判例でいう既判力に抗ったものであるため。また、却下の理由に引用されている局長通知を処分庁は隠蔽しており、最高裁判例でいう説明義務違反であり、原処分は取り消されるべきであるため。
2 審査庁
審理員意見書のとおり、本件審査請求を棄却すべきである。
第3 審理員意見書の要旨
本件審査請求は、一度処分の理由附記が不十分であるとして、審査庁が却下処分を取り消す裁決を行った経過があり、その後、処分庁は再度検討し、審査請求人に対して、保護申請却下処分(令和5年2月24日付けエアコンの取付け費用に係る保護変更申請に対する却下処分(以下「本件処分1」という。)及び同年3月7日付け冷蔵庫の修理費用に係る保護変更申請に対する却下処分(以下「本件処分2」という。))を行ったところ、審査請求が提起されたものである。
本件処分1及び本件処分2について、法令の規定及びその解釈に従い適正になされたものであり、違法又は不当な点は認められない。
また、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないとされるところ、処分庁が本件処分1及び本件処分2の保護申請却下通知に記載した「処分の理由」には、却下とした根拠及びそれに係る事実が詳細に記載されており、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを申請者においてその記載自体から了知することが可能であると考えられる。
したがって、本件処分1及び本件処分2は、法令等に定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり、調査審議を行った。
令和7年2月10日 審査庁から諮問書及び諮問説明書を収受
令和7年2月18日 調査・審議
令和7年3月21日 調査・審議
第5 審査会の判断の理由
1 審理手続の適正について
本件審査請求について、審理員による適正な審理手続が行われたものと認められる。
2 本件に係る法令等の規定について
(1) 「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年4月1日厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第7の1に基づけば、経常的最低生活費とは「要保護者の衣食等月々の経常的な最低生活需要のすべてを満たすための費用として認定するものであり、したがって、被保護者は、経常的最低生活費の範囲内において通常予測される生活需要はすべてまかなうべきものであること。」とされている。
(2) 「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日厚生省社会局長通知。以下「局長通知」という。)第7の2(6)アにおいて、「被保護世帯が次の(ア)から(オ)までのいずれかの場合に該当し、次官通知第7に定めるところによって判断した結果、炊事用具、食器等の家具什器を必要とする状態にあると認められるときは、32,300円の範囲内において特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。
なお、真にやむを得ない事情により、この額により難いと認められるときは、51,500円の範囲内において、特別基準の設定があったものとして家具什器(イ及びウを除く。)を支給して差し支えないこと。
(ア) 保護開始時において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。
(イ) 単身の被保護世帯であり、当該単身者が長期入院・入所後に退院・退所し、新たに単身で居住を始める場合において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。
(ウ) 災害にあい、災害救助法第4条の救助が行われない場合において、当該地方公共団体等の救護をもってしては、災害により失った最低生活に直接必要な家具什器をまかなうことができないとき。
(エ) 転居の場合であって、新旧住居の設備の相異により、現に所有している最低生活に直接必要な家具什器を使用することができず、最低生活に直接必要な家具什器を補填しなければならない事情が認められるとき。
(オ) 犯罪等により被害を受け、又は同一世帯に属する者から暴力を受け、生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する場合において、最低生活に直接必要な家具什器の持合せがないとき。」とされている。
(3) 局長通知第7の2(6)ウにおいて、「被保護世帯がアの(ア)から(オ)までのいずれかに該当し、当該被保護世帯に属する被保護者に熱中症予防が特に必要とされる者がいる場合であって、それ以降、初めて到来する熱中症予防が必要となる時期を迎えるに当たり、最低生活に直接必要な冷房器具の持ち合わせがなく、真にやむを得ないと実施機関が認めたときは、冷房器具の購入に要する費用について、62,000円の範囲内において、特別基準の設定があったものとして必要な額を認定して差し支えないこと。」とされている。
(4) 生活保護法(昭和25年法律第144号)第24条第4項において、保護の要否、種類、程度及び方法を決定した書面には、決定の理由を付さなければならないと規定されている。また、行政手続法(平成5年法律第88号)第8条第1項及び第2項において、行政庁が申請拒否処分を行う場合は、同時に、当該処分の理由を示さなければならないこと、申請拒否処分を書面でするときは、同時に、書面により当該処分の理由を示さなければならないと規定されている。これらの理由提示の意義について、最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決、最高裁判所昭和49年4月25日第一小法廷判決、最高裁判所昭和60年1月22日第三小法廷判決などにおいて、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨であるものと解されており、このような趣旨に鑑み、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないとされている。
(5) 行政不服審査法第52条第1項において、裁決は、関係行政庁を拘束すると規定され、同条第2項において、申請を却下した処分が裁決で取り消された場合には、処分庁は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならないと規定されている。
3 本件処分の妥当性について
本件処分1について、処分庁は局長通知第7の2(6)ウに基づき処分を行った上で、保護申請却下通知書のなかで、処分の理由として「申請人は保護開始時よりエアコンを保有しており、局長通知第7の2(6)ウの支給要件に該当せず、次官通知第7の1のとおり支給できないと判断し、当該取付け費用に係る扶助費の申請はこれを却下とする。」としている。当該処分については、法令の規定及びその解釈に従い適正になされたものであり、違法又は不当な点は認められないことから、妥当である。
本件処分2について、処分庁は局長通知第7の2(6)アに基づき処分を行った上で、保護申請却下通知書のなかで、処分の理由として「冷蔵庫の修理費用についても局長通知第7の2(6)アの購入費用と同様のものと判断をし、局長通知第7の2(6)ア(ア)から(オ)までのいずれにも該当せず、次官通知第7の1のとおり支給できないと判断し、当該修理に係る扶助費の申請はこれを却下とする。」としている。当該処分については、法令の規定及びその解釈に従い適正になされたものであり、違法又は不当な点は認められないことから、妥当である。
また、処分庁が本件処分1及び本件処分2の保護申請却下通知に記載した「処分の理由」には、却下とした根拠及びそれに係る事実が詳細に記載されており、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がなされたかを申請者においてその記載自体から了知することが可能であると考えられる。
なお、審査請求人は、審査請求の理由及び反論書のなかで既判力について述べているが、既判力は、民事訴訟法(平成8年法律第109号)第114条第1項の規定により「確定判決」において適用されるものであり、「裁決」においては、行政不服審査法第52条第1項及び第2項の規定が適用され、裁決は、関係行政庁を拘束し、申請を却下した処分が裁決で取り消された場合は、処分庁は、当該裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならないとされている。ただし、「裁決の拘束力は、裁決の主文とその理由となる判断について生じるものであり、例えば、申請拒否処分が取り消された場合には、処分庁は、必ず申請を認容すべき拘束を受けるものではなく、裁決の趣旨に反しない限りにおいて、別の理由により、再び拒否処分をすることが妨げられるものではない。」(平成28年4月総務省行政管理局・逐条解説行政不服審査法)と解されている。
令和5年12月25日付け裁決は、裁決の主文とその理由となる判断において、処分の理由の提示が不十分であるとして原処分を取り消したものであり、前述のとおり理由が提示された以上、本件処分1及び本件処分2は、法令等に定めるところに従って適法かつ適正になされたものであり、違法又は不当であるとはいえない。
第6 結論
以上のとおり、本件審査請求には理由がないから、「第1 審査会の結論」のとおり、答申する。