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公文書開示審査会答申第116号

更新日:2011年3月1日 印刷ページ表示

 「平成10年ごろから、上記住所において、県道の拡幅工事による用地買収について○○土木事務所の職員らが協議と称して何度も来訪している。ついては、平成10年ごろから現在に至るまでの当該工事及び上記住所にかかる一切の情報」のうち、「平成10年ごろから現在に至るまでの上記住所にかかる一切の情報」の公文書の存否を明らかにしない決定に対する異議申立てに係る答申書

群馬県公文書開示審査会
第一部会

第1 審査会の結論

 実施機関の決定は妥当であり、取り消す必要はない。

第2 諮問事案の概要

1 公文書開示請求

 異議申立人(以下「申立人」という。)は、群馬県情報公開条例(以下「条例」という。)第11条の規定に基づき、群馬県知事(以下「実施機関」という。)に対し、平成20年2月4日付けで、「平成10年ごろから、上記住所において、県道の拡張工事による用地買収について○○土木事務所の職員らが協議と称して何度も来訪している。ついては平成10年ごろから現在に至るまでの当該工事及び上記住所にかかる一切の情報(回議書、伺い書、決裁書、同意書、復命書、協議書、議事録、会議録、打合簿、打合せメモ、査定所、境界確定書、用地買収マニュアル、補償額や買収額の単価、契約条件、実際の買収単価、工事名称、工事予算の出所、補償や買収など実際に支払った単価とその条件などを含む)」の開示請求(以下「本件請求」という。)を行った。

2 実施機関の決定

 実施機関は、平成20年3月13日、本件請求のうち、「平成10年ごろから現在に至るまでの上記住所にかかる一切の情報」について、公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本件処分」という。)を行い、公文書の存否を明らかにしない理由を次のとおり付して、申立人に通知した。

 群馬県情報公開条例第17条該当

 特定の個人の用地交渉等に関する文書は、当該公文書が存在しているか否かを答えるだけで、群馬県情報公開条例第14条第2号の個人に関する情報を明らかにすることになるため。

3 異議申立て

 申立人は、行政不服審査法第6条の規定に基づき、平成20年5月12日付けで、本件処分を不服として実施機関に対し異議申立てを行った。

4 諮問

 実施機関は条例第26条の規定に基づき、群馬県公文書開示審査会(以下「審査会」という。)に対して、平成20年5月29日、本件異議申立て事案の諮問(以下「本件事案」という。)を行った。

第3 争点(条例第17条該当性)

 本件請求の内容が条例第17条に該当するか。

第4 争点に対する当事者の主張

争点(条例第17条該当性)

(1)申立人の主張

 実施機関は「存否の応答をするだけで、用地交渉中等であるかどうかという当該個人に関する情報を明らかにしてしまうことになるため」としているが、申立人は、この実施機関の陳述している意味が理解できない。用地交渉中であるかどうかについて、利害関係者を含む「何人」に知られることが、重要なこととは思われないからである。この事案で、用地交渉中等であるかどうかを公表することは、納税者を含む「何人」に対する義務であり、知られると都合が悪いと思っているのは実施機関だけである。

 申立人の主張に対し実施機関は、「上述した特定の個人に関する氏名、住所、収入及び財産状況等に関する情報が広く一般に公にされることにより害されるおそれがある当該情報に係る個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性が上回るとは認められない」と説明した。この判断は、日本国憲法の前文に明記されている「国民主権」、憲法11条の「人権」、第16条の「請願権」、第29条の「財産権」を侵害する。

 なお、存否応答拒否について申立人に説明する際に、実施機関は、「Aさんが、B病院に入院しているかどうか、関係文書の開示を請求する」場合を例示し、「B病院にAさんに関する文書があるかどうかを答えるだけで、Aさんが病気であるかどうかという個人情報が明らかになってしまう」と述べた。しかも「上記に関しては県民センター統一の意見である」とつけ加えた。さらに「他の人物が開示請求しても、何人にも同様に明らかにしない」と述べた。

 このように個人情報保護を口うるさく唱える実施機関に対して、申立人は「個人情報保護条例により請求すれば、自分に関する情報に限り明らかにしてくれるのか」と訊いたところ、「できるかもしれない」と「かも」を強調して述べた。今回の、実施機関の理由説明を聞くと、要するに役所に都合の悪い情報は、憲法や条例を捻じ曲げて解釈しても、絶対に見せたくない、という意思を感じる。

(2)実施機関の主張

 開示請求された公文書のうち「平成10年ごろから現在に至るまでの当該住所にかかる一切の情報」については、当該住所が特定の個人を特定することになり、公文書が存在するかどうかを答えるだけで、現在、用地交渉中等であるかどうかという当該個人に関する情報を明らかにしてしまうことになるため、存否を明らかにすることはできない。

 また、条例が何人にも開示請求権を認め、何人にも同じ情報を開示することから、自己の個人情報の開示請求であるという個別事情は考慮されない。

 したがって、本件請求について、公文書の存否を明らかにしないで開示請求を拒否したことは、適正であると判断する。

 なお、申立人は、条例第14条第2号ただし書ロに規定する「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報」に該当するため開示しなければならないと主張するが、上述した特定の個人に関する氏名、住所、収入及び財産状況等に関する情報が広く一般に公にされることにより害されるおそれがある当該情報に係る個人の権利利益よりも、人の生命、健康等の保護の必要性が上回るとは認められないため、条例第14条第2号ただし書きロには該当しない。

第5 審査会の判断

 当審査会は、本件事案について審査した結果、次のとおり判断する。

1 争点(条例第17条該当性)

 (1)条例は第13条で原則開示をうたい、第14条で例外的に非開示を認めている。また、条例第17条は、開示請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで非開示情報を開示することとなるときは、当該公文書の存否を明らかにしないで開示請求を拒否することができると規定するが、本件請求は条例第14条第2号の個人に関する情報であることから、同号に該当することについて判断を行うこととなる。

 本県の条例は非開示とすべき個人情報の類型について個人識別型を採用しているので、条例第14条第2号本文にいう「個人に関する情報」であって「特定の個人を識別することができるもの」とは、当該情報に係る個人が誰であるかを識別させることになる氏名その他の記述の部分だけでなく、特定の個人情報全体を指すほか、当該情報単独では特定の個人を識別することができないが、他の情報と照合することにより識別可能となるものについても含まれると解される。

 また、条例の開示請求制度は、何人に対しても開示請求権を認めていることから、本人から、本人に関する情報の開示請求があった場合にも、開示請求者が誰であるかは考慮されず、条例第14条第2号ただし書イ~ハ又は条例第16条で規定する公益上の理由による裁量的開示に該当しない限り、非開示となる。

 (2)本件請求は、特定住所に関する用地買収についての情報を求めるものであるが、請求内容に「上記住所」及び「協議と称して何度も訪問している」という記載があることから、請求内容全体が、用地買収に関して土木事務所の職員から何度も訪問されているという、特定の個人に関する情報である。

 したがって、本件請求に係る情報が存在しているか否かを答えることは、特定の個人に関する情報を開示することになり、条例第14条第2号本文に該当することとなる。

 (3)一般に、土地の売買に係る所有権の移転、当該土地の所在、地番、地目及び地積並びに地権者の住所及び氏名は、不動産登記簿に登記されて公示されるものである。

 このことから、通常、用地買収をされた対象地の土地所有者の住所及び氏名は容易に知りうる情報であり、公にすることが予定されている情報であると考えられるため、条例第14条第2号ただし書イに該当すると考えられる。

 しかし、審査会が実施機関に確認をしたところ、「上記住所」とされる本件土地については県の所有とはなっていないとのことであった。

 したがって、本件土地は不動産登記簿に所有権の移転の登記がなされておらず、用地買収の対象地であるということが容易に推測することはできないため、条例第14条第2号ただし書イには該当しない。

 (4)申立人は、本件請求が条例第14条第2号ただし書ロに規定される「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当すると主張しているため、以下、この点について判断する。

 公にすることが必要であると認められる情報とは、人の生命、健康、生活又は財産の保護の必要性が、公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも上回る場合をいうものであり、開示の必要性も、その公にする必要性と個人の権利利益を比較衡量した上で判断されるものである。

 条例が何人にも開示請求権を認め、何人にも同じ情報を開示することから、自己の個人情報の開示請求である等の個別事情を考慮しないことは前述のとおりであるところ、本件事案については、請求者自身の住所に関する一切の情報をあえて何人にも公にする特段の必要性は認められないため、条例第14条第2号ただし書ロには該当しない。

 なお、本件請求から識別される特定の個人は、公務員等の職務遂行の情報ではないから、条例第14条第2号ただし書ハに該当しないことは明らかである。

2 結論

 以上のことから、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

 なお、申立人はその他種々主張するが、本答申の判断を左右するものではない。

第6 審査の経過

 当審査会の処理経過は、以下のとおりである。

審査会の処理経過
年月日 内容
平成20年5月29日 諮問

平成20年7月10日

実施機関からの理由説明書を受領

平成20年8月15日

異議申立人からの意見書を受領

平成20年11月21日
(第20回第一部会)

審議(本件事案の概要説明)

平成21年1月9日
(第21回第一部会)

審議

平成21年2月6日
(第22回第一部会)

審議(実施機関の口頭説明)

平成21年3月17日
(第23回第一部会)

審議

平成21年4月24日
(第24回第一部会)

審議

平成21年6月22日
(第25回第一部会)

審議

平成21年7月8日

答申