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水試だより54号

更新日:2022年10月31日 印刷ページ表示

シン・水産試験場

 水産試験場では4月1日付け定期人事異動で、次長を除く係長以上が総入替えとなりました。さらに、3名の新規採用職員も迎え入れました。久しぶりの大きな異動です。新体制となった水産試験場、私が掲げる今年度の水産試験場のスローガンは「シン・水産試験場」です(4月1日に職員の前でこれを披露したら笑われましたが、私としては大真面目です)。
「シン」には色々な漢字(意味)があります。

「新」:新しいことに挑戦する。
「伸」:水産業を伸ばす。強みを伸ばす。
「進」:着実に進歩する。
「親」:水産関係者、県民に親しまれる。良い種卵は良い親魚から。
「信」「心」:信頼関係の構築(関係者とも、職場の仲間とも)。
「真」:真実を探求する。

 このスローガンを言葉だけで終わらせないように、水試一丸となって頑張りたいと思います。
 さて、水産を取り巻く世の中の状況は、近年大きく変化してきており、変化の速度もますます速まっていると感じています。ウィズコロナ時代のニューノーマルへの対応、グリーン化、フードテック、DX等々、様々な新しい課題への対応が求められています。コロナ禍では、ブランド魚の需要が大きく落ち込むなど経済的な打撃もありましたが、ピンチをチャンスに変え、新たに出てきた課題も追い風と捉えて、県内水産業をさらに成長させたいと考えています。水産試験場は試験研究機関であるとともに普及指導機関であり、種苗センターでもあることから、生産者や漁業協同組合の方々とも接する機会が多く、研究員が現場の課題を肌で感じることが可能です。本県は海なし県なので水産試験場の規模は小さいですが、現場の課題に敏感に反応して、試験研究テーマとして取り組み、得られた成果を現場に素早くお返しすることができます。また、そうすることが我々の使命であると考えます。
 県農政部の最上位計画「群馬県農業農村振興計画2201-2025」は基本目標として「未来へ紡ぐ! 豊かで成長し続ける農業・農村の確立」を掲げています。水産業においても持続的に成長するためには、技術の開発、導入、普及が必須です。ノルウェーのアトランティックサーモン養殖は水産業の代表的な成功例ですが、ノルウェーサーモンの生産増加は、飼養面積の拡大では無く、育種やワクチンなどの技術開発によってもたらされました。我々も本県水産業の発展のために、関係者の皆様とともに一生懸命取り組む所存です。

 「シン・水産試験場」をどうぞよろしくお願いいたします。

(水産試験場 場長 小西  浩司)

【特集】戻し交配による新規系統アユの作出

はじめに

 水産試験場では冷水病による資源量減少を防止するため、海から江戸川に遡上したアユを継代飼育し「江戸川系」を作出しました。江戸川系は冷水病に人為感染させて生残した親魚を用いた系統のため、冷水病耐性の高い優れた系統です。しかし、江戸川系の作出から10年が経過しており、飼育はしやすいものの、遡上性や遺伝的多様性の低下が懸念されています。そこで、水産試験場では、江戸川系の雌と、天然遡上アユの雄を交配し、新たなアユ系統を開発することにしました。

天然遡上アユの親魚養成

 2021年3月22日および4月1日に、千葉県松戸市の江戸川河口から13キロメートル上流にある葛飾大橋上流付近の定置網で採捕された天然遡上アユ計約2,000尾を水産試験場に輸送しました。このアユは冷水病に感染している可能性があるため、継代飼育しているアユとは別の飼育棟内の屋内コンクリート製飼育池(八角形50トン容)に設置した網生け簀(3.8×3.8×水深0.9 メートル)に収容しました。
 水温約17℃の井戸水で輸送翌日から配合飼料を与えて養成するとともに、4月から5月にかけて抗菌剤を使用基準に従って投薬し、体内からの冷水病菌等の魚病細菌の除菌を試みました。天然遡上アユの摂餌行動は活発であり、開始日から摂餌を行う個体が確認され、翌々日にはほぼ餌付けを完了することができました。その後も天然遡上アユの摂餌行動は活発でした。なお、天然遡上アユは、場内で継代飼育している江戸川系と成熟時期が異なる可能性が高いため、6月10日から7月16日まで電照することで成熟時期の調整を行いました。

交配による新規系統アユの作出

 2021年8月30日に雌雄選別を行い、その後は雌雄別に飼育しました。2021年9月7日に江戸川系の雌38尾と天然遡上アユの雄40尾、9月13日に江戸川系の雌45尾と天然遡上アユの雄51尾を用いて交配を行うことで新規系統アユを作出しました。なお、冷水病については採精後に雄30個体について保菌検査を行ったところ全て陰性でした。
 江戸川系および新規系統アユの発眼率およびふ化率を表に示しました。新規系統アユの発眼率およびふ化率は、当初想定していたよりも高く、多くのふ化仔魚を得ることができました。

表 発眼率とふ化率
  発眼率(%) ふ化率(%)
新規系統 87.2 88.1
江戸川系 69.1 80.6

新規系統アユの生産・飼育特性の把握

 新規系統アユの発眼卵は、9月16日と9月21日にアユ飼育棟内の屋内コンクリート製飼育池(八角形50トン容)2面にそれぞれ約50万粒を収容しました。その後は、飼育特性を確認しながら給餌、選別等を実施しました。新規系統アユの摂餌行動は活発で江戸川系と比べて遜色ありませんでした。
 11月中旬に新規系統アユの選別を試みたところ、作業中に生け簀の中で多数の死亡魚を確認したため、選別作業を12月に延期しました。12月上旬から選別作業を再開したところ、作業中の死亡尾数は大幅に減少しました。このことから、新規系統アユは飼育初期に江戸川系よりも網によるスレのダメージを受けやすい可能性があります。
これ以外にも新規系統アユは江戸川系と異なる飼育特性があると考えられることから、今後、それらを把握していく予定です。

(生産技術係 神澤 裕平)

【水産行政から】漁業権の一斉切替が近づいています!(第5種共同漁業権Ver.)

はじめに

水面を効果的に漁場として利用するためには、水温や餌生物などの自然的条件、漁具漁法や養殖技術等の進歩、漁村生活や消費者ニーズなどの社会的・経済的条件の変化に対応することが重要です。そのためには、その漁場の状態に応じて、一定期間ごとに漁場の利用状況を科学的・合理的な見地から見直す必要があります。このことから、「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」である漁業権は10年に1度、全国規模で一斉に切替が行われています。
群馬県内では平成25年の漁業権切替により、第5種共同漁業権については18の漁業権を17の漁業協同組合(以下、漁協)に免許しています。この漁業権が来年の令和5年9月1日に切替となります。漁業権の切替には、内水面漁場計画(以下、漁場計画)の公示、漁協の決議、免許申請等の手続きがあり、切替1年前の本年から様々な準備が必要になります。

 

漁業権免許一斉切替までの手順

漁業権免許の一斉切替は、大きく分けると、以下の2つの手続きで構成されています。
その手順は図のとおりです。

(1)漁場計画の策定
(2)漁業権の免許

上記(1)漁場計画とは、より合理的、かつ、より高度な漁場の総合利用を図るために、県が漁業関係人等の要望や漁業条件の調査を行いながら定める計画です。この計画策定・公表後に(2)漁業権の免許の申請が始まります。
なお、共同漁業権の存続期間は上述のとおり10年ですが、令和2年12月に行われた漁業法の大規模改正により、水面の総合的利用や漁場利用の高度化を促進するため、漁場計画は5年ごとに作成することになりました。そのため、来年に漁業権が免許される漁場においては、次回の漁場計画の策定は令和10年に行われます。

漁業権の一斉切り替え

免許申請のために

共同漁業権については、従来通り漁協にのみ免許されます。現在免許を受けている漁業権を引き続き要望する場合、または、新たな漁業権を要望する場合は、まず要望する漁業権の現状を把握することから始めて下さい。その際に、免許申請に関係する以下の項目を念頭に置き、様々な情勢の変化を考慮の上、資源の活用状況や漁場の利用状況等を調査・確認すると、スムーズに免許申請の手続きを始めることが可能となります。

  • 漁業権魚種
  • 漁場の位置及び区域
  • 共同申請に関する調整
  • 隣接する漁業権に関する調整 等

(蚕糸園芸課水産係 渡辺 峻)