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がんの解説
がんの症状から治療法までを、県内病院で診察中の医師が解説します。
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1 肺がんとは
肺がんとは肺に発生する悪性腫瘍で、とくに気管、気管支、肺胞のなどの上皮細胞由来の細胞が正常の機能を失い、無秩序に増えた細胞や、その集合体のことをいいます。上皮ではなく間葉系(例えば骨・軟骨や筋など)から発生する悪性腫瘍は「(漢字で)癌(がん)」ではなく「肉腫」と呼ばれますが、肺がんの中でそれらは非常に稀でありますので、ここでは主に肺癌(がん)=肺がんとさせていただきます。また、肺がんの中で特に肺からできたものを「原発性肺がん」といい、他臓器から悪性腫瘍が転移してきてできる「転移性肺腫瘍」とは分けて考えます。ここでは原発性肺がんに関する説明をします。
がんは正常な肺に遺伝子の変異が起こり異常な遺伝子をもった細胞が増殖するものですから、「遺伝子の病気」とも言われています。がんは周囲の組織や器官を破壊して増殖しながら(浸潤といいます)、他の臓器に拡がり(転移といいます)、早期がんから進行がんへとなります。
最近、がんの発生と遺伝子の異常についての研究が進んでおり、肺がんの原因遺伝子の解明が進んでいますが、その全貌は明らかとなっていません。
2 肺がんの統計
日本では2009年の統計で、男性、女性ともにでは全がん死の中で最も多く、男女合計でも肺がんは第1位となっています。罹患率については、男性では胃がん、大腸がんについで第3位で、女性は乳がん、大腸がん、胃がんについで第4位となっています。罹患数と死亡数に大きな差はなく、これは、肺がん罹患者の生存率が低いことと関連しています。
肺がんに限らず、がんになる確率は一般的に高齢になるほど高くなりますが、年齢別に罹患(りかん)率、死亡率は、ともに40歳代後半から増加し始め、高齢ほど高くなります。死亡率の推移は、1960年代から80年代に急激に増加しましたが、90年代後半から男女とも若干の減少傾向にあります。
3 肺がんの原因
肺がんの原因の中でもっとも影響が強いものはタバコです。日本では男性の肺がんの約7割、女性の肺がんの約2割は本人の喫煙が原因と推測されています。肺がんの組織型別では、扁平(へんぺい)上皮がんについては男性12倍、女性11倍であるのに対し、腺がんについては男性2.3倍、女性1.4倍と喫煙による影響が非常に強い種類とそうでない種類がありますが、どの種類でも肺がんの発がんに影響が関与していると考えられています。
タバコは肺がんの原因になるのみではなく、その煙が口腔~のど~肺とその通り道の臓器に傷害を及ぼし、また消化管やその排泄経路となる血液・肝臓・腎臓・尿路などの臓器にも影響がでているといわれています。タバコは喫煙者自身の臓器だけではなく、一緒に生活している人の発がんの原因ともなり(副流煙)、受動喫煙者は受動喫煙がない者に対し、20~30%程度高くなると推計されています。
また、タバコのほかに喫煙以外に肺がんと関連する原因としては、大気汚染やアスベスト、石綿、クロムなどの物質、放射線などがあります。また、遺伝的要因(発がん物質の代謝経路にある酵素の活性などを決める遺伝子多型)や呼吸器疾患の既往なども肺がんの発生の危険性があると考えられていますが、それらの影響は喫煙によるものよりずっと少なく、これらに関する研究の結果はまだ十分に明らかとなっていません。
逆に野菜・果物の摂取は、リスクの軽減につながっている可能性があるとされていますが、十分な確認はされていません。逆に喫煙者では、高用量のβ-カロテン(抗酸化作用をもつ)は、肺がんリスクを高くする根拠が十分とされています。
4 肺がんの種類と特徴
肺がんは、その腫瘍学的な特徴や治療方法の違いから「小細胞がん」と肺がんで小細胞肺がんを除いた他の種類を含む「非小細胞がん」の2つの型に大きく分類されて、扱われます。
非小細胞肺がんには、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどの組織型(種類)が含まれます。これらは顕微鏡でみたときのがん細胞の形やどういった性質をもっているかを調べて分類したものです。腺がんは、我が国で最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%以上を占めています。扁平上皮がんは次に多く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの15%を占めており、喫煙の関与が強いとされています。そういったことから気管支が肺に入った近くに発生する肺門型と呼ばれるがんの頻度が、腺がんに比べて高くなります。大細胞がんは、一般に増殖が速いものが多く、全体の約10%程度とされます。
小細胞がんは肺がんの約15~20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすい悪性度の高いがんです。しかし、非小細胞肺がんと異なり、抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいタイプのがんです。また、約80%以上では、がん細胞が種々のホルモンを産生しています (しかし、ホルモン産生過剰による症状があらわれることはまれです)。
4-1) 非小細胞肺がん
前述のとおり、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、腺扁平上皮がんなどを治療上の観点から一括して総称したものです。
4-1)-1 腺がん
腺がんは、気管支や肺胞といった細胞に似た形や性質をもつがんです。腺がんは日本では最も発生頻度が高く、男性の肺がんの40%、女性の肺がんの70%を占めるとされます。発生部位は肺末梢側に多いです。進行は速いものと遅いものがさまざまで、喫煙の関連性も指摘されていますが、女性でたばこを吸ったことのないひとにできる肺がんのほとんどはこの腺癌になります。また、その場合にはEGFR
(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異がある確率が高いことが知られており、ゲフィチニブ(イレッサ(R))などといった薬の効果が高いことも示されています。
4-1)-2 扁平上皮がん
扁平上皮がんは男性の肺がんの40%、女性の肺がんの15%程度を占めます。扁平上皮がんは空気の通り道(=気道)の中枢側にできやすいとされていますが、最近では肺の末梢発生のタイプも増えています。扁平上皮がんは喫煙者に生じることがほとんどです。組織学的には皮膚などの細胞である扁平上皮細胞の性質をもったがんです。
4-1)-3腺扁平上皮がん
腺扁平上皮がんは腺がんと扁平上皮がんの両方の成分をもった腫瘍です。同じ大きさの腺がんや扁平上皮がんと比べると、悪性度が高いことが知られています。頻度は肺がんの数%程度です。
4-1)-4大細胞がん
大細胞がんは大きな細胞からなるがんで、腺がんや扁平上皮がんなどのいずれの特徴ももたないものをいいます。腫瘍そのものも比較的増殖が速く、転移が起こりやすく悪性度が高いとされます。
このほかに、カルチノイドやがん肉腫、腺様嚢胞がんといった稀な種類のがんが含まれます。
4-2) 小細胞肺がん
小細胞肺がんは肺がんの15%程度を占める種類のもので、顕微鏡でみると比較的小さな細胞からなるためこのように呼ばれます。増殖・進展が急速で、悪性度が高いため、リンパ行性(リンパ管の中を通って転移する)にも血行性(血管の中を通って転移する)にも転移し、早いうちからリンパ節や脳などの他臓器に転移しやすいため、発見時すでに進行がんである事が多いです。免疫染色などの検査により、神経内分泌上皮由来であることがつきとめられています。
診断時に既に転移が見られることが多いため、化学療法や放射線療法が行われることが多く手術可能である症例は稀です。ただ、非小細胞肺がんと違い、放射線療法や化学療法の感受性が高いため、その効果は高いとされます。
5 症状
肺がんの初期には症状は乏しいことがほとんどです。このため、外科切除の適応となる早期の肺がんは検診や他の病期を医療機関で観察している最中に発見されることが多いです。特に腺がんに多い肺野型の肺がんは、がんが小さいうちは症状が出にくい傾向があります。がんが浸潤して胸の壁を壊すようになると(胸壁浸潤)、胸痛がでてくるようになります。また、がんが転移すると、その転移先に応じて症状が出ます。たとえば、脳転移により頭痛やめまい・ふらつきや麻痺などの症状がおこることがあり、骨転移による痛みが初発の症状となることもあります。その他にがんが近くの神経に浸潤することで声が枯れたり(嗄声:させい)、腕や肩の運動麻痺や知覚異常があらわれることがあります(腕神経叢麻痺)。頚部の交感神経に障害が加わるとホルネル徴候(縮瞳や眼瞼下垂、発汗低下など)が現れます。
また、他のがんと同様に肺がんでも、易疲労感、食欲不振、体重減少があらわれることがあります。そのほかに難治性の咳や息切れ、血痰、声のかれ、顔や首のむくみなどが出ることもあります。特に扁平上皮がんや小細胞がんなど肺の中心部にできやすい種類の肺がんでは、早期から咳、痰、血痰などの症状が出現しやすいといわれています。
以上のように肺がんの症状は、特徴的とはいえない、風邪などの症状と区別がつかないことも多いので、上記の症状が持続する場合などには医療機関の受診をお勧めします。また、近年では、とくに喫煙歴の長い方などではレントゲンよりもCTで検診を行った方が、肺がんの検出に優れているというデータもでています。
6 診断
咳、痰などの症状がある場合、最初に胸のレントゲン検査をします。レントゲン検査のみでは小さな病変などの性状がはっきりしないことが多いですから、次に胸部のCTスキャンを行い、病変部分やリンパ節の腫脹の程度を確認します。CTスキャンでは、細かいがんの性状をみることができます。さらに他の画像検査(PET検査など)も組み合わせることで病変ががんかどうかを予測することができますが、確定診断は実際の病変部分の組織や細胞を顕微鏡でみて調べることになります。喀痰検査をして、そこにがん細胞がでている場合はそれで確定診断となりますが、痰が出ない場合や、痰の中にがん細胞が検出されない場合に、以下のような方法で診断をつけることとなります。
6-1) 気管支鏡検査
気管支鏡あるいはファイバースコープと呼ばれる太さ5~6mmの特殊な内視鏡を鼻または口から挿入し、喉から気管支の中を観察し、病変の組織や細胞を採取します。検査に先だって、検査による喉や気管の痛みを軽減するため、口腔の奥まで局所麻酔を行います。気管支鏡を使って、気管支の壁から細胞をとったり、組織の一部をとり、標本をつくって顕微鏡でがん細胞があるかどうか検査します。検査時間は約20-30分です。検査中は目覚めており、通常外来でこの検査を行い、検査後数時間で帰宅できます。 この検査は、透視(レントゲン)でうつるような形や性状の病変に対して行われます。また、CT検査などで、気管支(空気の通り道)に沿って病変がある場合に、診断の精度が上がります。
6-2) CTガイド下肺針生検
病巣が、気管支鏡が届かないような場所にできた場合やレントゲン写真で見えない病巣で場合には、CTで目標を定め、直接皮膚から針を病巣に刺して組織を採取することとなります。とった組織や細胞を顕微鏡で検査します。 この検査では肺に針を直接刺して診断を行うこととなるため、肺から外に空気が漏れて肺がしぼんでしまうことがあります(これを気胸といいます)。
6-3) リンパ節生検・胸腔穿刺
そのほかに、首などのリンパ節がはれていて転移の可能性がある場合、リンパ節に針を刺して細胞を採取したり、局所麻酔をして外科的にリンパ節を採取したりすることがあります。また、気管や気管支に沿ったリンパ節がはれていて転移の可能性がある場合や診断が必要な場合には、超音波気管支鏡(EBUS)を用いた超音波気管支鏡ガイド下針生検が行う場合があります。この場合は6-1で記載した気管支鏡検査と同様の手技で行われます。がんの転移や胸膜播種(がん細胞が胸腔内にこぼれて広がっていること)で胸水がたまっている場合には胸腔穿刺といって胸腔内にたまった胸水を抜いて、細胞を調べることがあります。
6-4) 外科的生検(胸腔鏡下肺生検・開胸肺生検)
これらの方法を用いても診断が困難な場合や画像上肺がんが疑われるものの病変が小さく前述の方法による診断が困難である場合に外科的に組織を採取します。外科的な方法には、胸腔鏡検査、胸を開く方法(開胸)があります。これらは全身麻酔による検査となるため侵襲が大きく体に負担をかけることとなりますが、診断精度は最も高く、さらに手術適応となる癌であった場合にはそのまま根治的な(=治療を兼ねる)切除をできることとなります。胸腔鏡による手術となるか開胸による手術となるかは、がんの進行状況や各施設でのやり方の違いになります。
その他に、縦隔のリンパ節が腫れている場合には縦隔鏡検査といって、首の下端の皮膚を切開して、気管周囲のリンパ節や近くに位置する腫瘍組織を採取するものがあります。
7 各治療法について
がんの組織型、病期 (ステージ)などの腫瘍因子と、今までかかった病気や現在の心臓、肺、腎臓や肝臓などの患者本人の臓器の状態、一般的な健康状態 (PS)に基づいて治療の方法を選択します。肺がんの治療法の3本柱は外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法です。
7-1) 外科療法
肺がんが早期である場合に最も根治性の高い治療としてエビデンス(証拠)が確立しています。標準の手術方法としては、肺葉切除(右肺は上葉、中葉、下葉と分かれ、左肺は上葉、下葉と分かれていますが、そのひとつを切除すること)とリンパ節にがんがあるかどうかを確認するためにリンパ節の摘出(リンパ節郭清といいます)を行います。がんの進行度合に応じて、二つ以上の葉を取る場合や、片側の肺をすべて切除する場合があります。また、患者さんが高齢の場合や肺葉切除に耐えられない場合、肺葉切除をするほどは大きくとる必要のない非常に早期のがんの場合、部分切除や区域切除といった縮小手術が行われることがあります。
非小細胞がんの場合、I期からIIIA期の一部が手術の対象となりますが、患者の臓器機能として、心臓や肺の機能障害がある場合は手術ができないこともあります。小細胞がんの場合、I期などの極めて早期の場合のみが手術の対象となりますが、頻度的に極めて少なく、術後に抗がん剤による化学療法が必要となります。
以前の肺癌の手術は、開胸手術と言って、15-30cm皮膚を切開して、肋骨を切って行う方法が主流でしたが、現在では、肋骨を切らずに3cm程度の皮膚の傷と5mmから1cm程度の穴を数カ所で行う胸腔鏡手術が普及し、患者さんの体の負担はだいぶ軽減されてきています。しかし、胸腔鏡手術の適応は、病気の進み具合や、施設により違いがありますので、手術の方法については主治医に御確認ください。
7-2) 放射線治療
X線やほかの高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺すものです。肺がん患者に治療を行う場合、通常は身体の外から患部である肺やリンパ節に放射線を照射します。適応となるのは、非小細胞肺がんの場合は手術できない(手術にからだが耐えられない場合)1・2期や手術による完全切除が難しい場合の3A期、胸水を認めない3B期、小細胞がんの場合は限局型が対象となります。これに後述する化学療法を組み合わせて治療を行います。ただし間質性肺炎などがある場合には、肺炎が悪化してしまうことがあり、照射が難しいこともあります。最近では、がん病巣のみを集中的に治療し、副作用を軽減する放射線療法も行われています(定位照射)。小細胞がんは脳へ転移する場合が多く、脳へ転移するのを防ぐ目的で転移がなくても脳放射線治療が行われることがあります(予防的全脳照射)。
主な副作用は、放射線をあてたことによる各臓器のやけどで、放射線治療中及び治療の終わりころから症状が強くなる肺臓炎、食道炎、皮膚炎などがあります。
7-3) 化学療法 (抗がん剤)
化学療法は抗がん剤を注射、点滴、内服による投与を行い、がん細胞を殺すことを目的とした治療法です。外科療法や放射線療法は病変部に対する局所治療であるのに対し、化学療法は全身治療となります。このため、静脈内または内服によって投与された抗がん剤が、血液の中に入り、全身を循環することで、肺だけでなく、肺の外に拡がったがん細胞にも効果が期待されます。外科治療に化学療法を追加するのは、このように全身にちらばった可能性のあるまだ小さながん細胞に効果を示すことで、治癒の可能性を高めるというものです。ただし、現状の化学療法のみでは、がんを治すことは不可能です。治療成績向上を目指して、新規抗がん剤の開発や、化学療法に関する多くの臨床試験が進められています。
抗がん剤の副作用は、使用する抗がん剤の種類ごとに異なり、またその発症頻度や程度にも個人差があります。自覚的な副作用には、吐き気・嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢、便秘、全身倦怠感、末梢神経障害(手足のしびれ)、脱毛などがあります。他覚的な副作用には、白血球減少、貧血、血小板減少、肝機能障害、腎機能障害、心機能障害、肺障害などがあります。その他、予期せぬ重篤な副作用があらわれ、まれに命にかかわることもあります。白血球減少が高度な場合、易感染性による感染症の合併を防ぐため、白血球増殖因子(G-CSF)と呼ばれる遺伝子工学でつくられた白血球を増やす薬を皮下注射することがあります。貧血、血小板減少が高度な場合、まれに輸血を行うこともあります。主に抗がん剤の投与日から数日間にわたってあらわれる吐き気・嘔吐に対しては、吐き気止めの薬を点滴静脈注射します。これらの副作用の大半は一時的なものであり、脱毛、末梢神経障害を除き、治療開始後2~4週間で回復します。
がんに対する治療は、全身治療ですから、正常な細胞にも障害を及ぼし、副作用・後遺症を伴います。肺がんも同様であり、特に、小細胞がんは急速に進行し致命的になりうるので、この病気に対する治療は強力に行う必要があり、そのため副作用も強くあらわれることがあります。医師はできるだけ副作用を軽減すべく努力していますが、治療に伴い種々の副作用があらわれることがあります。
また、肺がんの分子生物学的な研究が進み、がんの増殖には上皮増殖因子受容体(EGFR)や血管上皮成長因子(VEGF)などの関与が明らかになっており、これらの特定の分子を標的とする分子標的治療薬の効果が明らかなものとなっています。分子標的薬は従来の抗がん剤と違いがん細胞への特異性が高く、血液毒性が低いことが特徴です。分子標的薬であるゲフィチニブ(イレッサ(R))やエルロチニブ(タルセバ(R))はEGFRに作用します。EGFR遺伝子に変異がある方(特に非喫煙者で女性の腺癌患者が多い)で、その効果が強いことが示されています。他には、VEGFRに作用するベバシズマブ(アバスチン(R))は従来の抗がん剤に組み合わせて使うことで腺癌の進行例の増殖を抑える効果を高める効果があり、併用されるようになっています。
7-4)内視鏡治療(レーザー治療)
気管支の内腔に発生した肺門型の早期の肺がんに行われます。気管支鏡で見える範囲のがんにレーザー光線を照射して治療します。また、光線力学的療法と呼ばれる、がん組織に取り込まれ光に反応しやすい化学薬品を投与したあとに、レーザー光線を照射して選択的に治療する方法もあります。
8 病期分類(各病期の治療について)
細胞・組織学的、または画像上で、肺がんと診断されると、がんの局所の拡がりと全身への拡がりをみるため、さらに詳しい検査を行うことになります。
全身のがんの拡がりとしては、肺がんの転移先で頻度の高い臓器である脳、肝臓、副腎、骨、肺の他の部分を含めて全身を確認することになります。脳については磁石の原理を応用した磁気共鳴装置と呼ばれる機械を使った頭部MRIもしくは頭部CTスキャン検査を行います。腹部臓器については腹部のCTあるいは超音波検査を行います。骨については骨シンチグラフィ(ラジオアイソトープを使った全身の骨のレントゲン検査)を行います。肺については通常病変部のCT検査を行うと、両側の肺全体の検査を行うことができます。
また、頭部以外の臓器についてはポジトロンCT(PET:ペット)と呼ばれる放射性同位元素を用いた検査で、がんの診断及び病気の拡がりの診断をまとめてできるため診断や転移の検出に用いられることが多くなってきました。
このほかに血液検査で腫瘍マーカーというがん細胞から産出される物質の値を調べることも診断や検出の補助に使われます。ただし、腫瘍マーカーが上がっている全ての場合にがんがかかっているわけではありませんし、逆に喫煙者では肺がんでなくともCEAなどの腫瘍マーカーが高値のこともあります。
肺がんの病期についても非小細胞肺がん、小細胞肺がんにわけて用いられることとなります。各種類についての病期は下記を参照してください。
1A期 |
T1a, T1b |
N0 |
M0 |
---|---|---|---|
1B期 |
T2a |
N0 |
M0 |
2A期 |
T1a, T1b, T2a |
N1 |
M0 |
T2b |
N0 |
M0 |
|
2B期 |
T2b |
N1 |
M0 |
T3 |
N0 |
M0 |
|
3A期 |
T1aまたはT1b |
N2 |
M0 |
T2a, T2b, T3 |
N2 |
M0 |
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T3, T4 |
N1 |
M0 |
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T4 |
N0 |
M0 |
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3B期 |
いずれかのT |
N3 |
M0 |
T4 |
N2 |
M0 |
|
4期 |
いずれかのT |
いずれかの N |
M1aまたはM1b |
※通常、病期の表記にはローマ数字が使用されますが、ここではアラビア数字で表記しております
1)非小細胞肺がん
がん病巣の拡がりぐあいを腫瘍の大きさや浸潤の度合い、リンパ節転移や遠隔臓器への転移の有無(TNM分類)で病気の進行を(0、) I、II、III、IV期に分類します。
0期
がんは局所に見つかっていますが、気管支をおおう細胞の細一部のみにある非常に早期の段階です。
治療:外科療法、またはレーザー治療
1期
1A期(T1a/1b N0):大きさ3cm以下のがんが原発巣にとどまっており、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階です (大きさが2cm以下の場合はT1a、2-3cmまでの場合がT1bとなりますが、組織型や全身状態に応じてT1bでは術後に内服の抗がん剤治療を行います。)。
1B期(T2aN0):1A期と同じくリンパ節や他の臓器に転移を認めない段階ですが、腫瘍の大きさが3cmをこえ、5cm以下の段階です。
治療:外科療法 (放射線療法:外科手術ができない場合)※1A期で2cm以上の場合や1B期では抗がん剤の術後補助療法をする場合があります。
2期
2A期(T2bN0、T1/2aN0):原発巣のがんの大きさが5cmより大きく7cm以下の場合でリンパ節や他臓器に転移を認めない場合と、がんの大きさが5cm以下でがんと同じ側の肺門のリンパ節にがんの転移を認めます(疑いのときもあります)が、他の臓器には転移を認めない場合があります。
2B期(T2bN1、T3N0):がんの大きさが5cmより大きく7cm以下の場合でがんと同じ側の肺門のリンパ節にがんの転移を認めます(疑いのときもあります)が、他の臓器には転移を認めない場合があります。このほかにがんの原発そのものが7cmより大きい場合や、腫瘍が直接胸壁に浸潤している場合なども含まれます。
治療:外科療法 (放射線療法:外科手術が適切でない場合)+その後に、抗がん剤による化学療法(術後化学療法)
3期
3A期(T1-3N2、T3N1、T4N0-1):3A期はいろいろな段階の状態が含まれます。1)原発巣のがんの大きさに関わらず、同じ側の縦隔リンパ節に転移がある状態。2)または原発巣が7cmをこえているか、直接胸膜・胸壁に拡がっている状態で、原発巣と同じ側の肺門リンパ節まで転移がある状態。3)または原発巣のがんが直接縦隔や食道、大動脈などへ浸潤しているものの、リンパ節転移が同じ側の肺門リンパ節までの段階。
治療
- 外科療法
- 外科療法とその後に抗がん剤による化学療法(術後化学療法)
- 抗がん剤(+放射線)による治療後に手術する合併療法
- 放射線療法と抗がん剤による化学療法の合併療法(手術が適切でない場合)
- 放射線療法(外科手術や化学療法が適切でない場合)
3A期の非小細胞がんの治療は、外科療法・放射線療法・化学療法のいずれかを組み合わせた合併療法が主流です。いろいろな腫瘍の段階が含まれますので、個々の症例に応じて治療を選択することになります。手術によりがん病巣の完全な切除が可能である場合には、外科手術が選択されます。その際には再発・転移の予防に手術前後に放射線療法や化学療法を組み合わせることとなります。治療前の検討において外科的に完全にがん病巣をとり除くことが不可能である、あるいは体力が手術に耐えられない場合には、放射線療法に化学療法を組み合わせて行います。その際の化学療法は、放射線療法の前、または同時に行います。放射線療法に化学療法を同時に組み合わせる場合、副作用が強くなる場合が多いため、体力が十分でない場合は、化学療法を先行して行い、その後に放射線療法を追加するか、放射線療法単独となる場合もあります。
3B期(N3もしくはT4N2):原発巣のがんが直接縦隔や食道、大動脈などへ浸潤していてかつ縦隔リンパ節への転移をみとめる段階や、原発巣と反対側の縦隔、首のつけ根のリンパ節に転移を認める段階です。
治療
- 抗がん剤による化学療法
- 抗がん剤による化学療法と放射線療法の合併療法
- 放射線療法
3B期では、3A期と同様に抗がん剤による化学療法と放射線療法の合併療法が選択され、体力が十分でない場合は化学療法を先行して行い、その後に放射線療法を追加するか、放射線療法単独となる場合もあります。
4期(T、Nに関係なくM1)
原発巣の他に、反対側の肺や、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移がある場合や胸膜播種・悪性胸水(胸水中に癌細胞がいる)の場合です。
治療
- 抗がん剤による化学療法
- 放射線療法
- 痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした緩和療法
4期では、積極的な治療をできる場合は抗がん剤による化学療法が選択されます。胸膜播種及び胸水貯留を認める場合は、抗がん剤による化学療法が選択されます。多量の胸水貯留を伴っている場合、まず胸水の排液とコントロールが必要になります。肺と胸壁の間の胸腔というスペースにドレーンという管を入れて胸水を排液し、肺が十分に拡張してから、胸腔内に癒着剤を注入し、胸水が再びたまらないような治療を行います(胸膜癒着術)。胸水排液・胸膜癒着療法など、胸水のコントロールがついてから、抗がん剤による化学療法が検討されます。
しかしながら、化学療法では一時的にがんの縮小を認めることもありますが、現状では抗がん剤のみでがんを治すことは不可能です。また、抗がん剤にはいろいろな副作用がありますから、全身状態が良くない場合には化学療法ができないこともあります。骨転移や脳転移などの遠隔転移による症状がある場合には、それぞれの転移病巣部に対して放射線治療を行い、症状のコントロールを行ったりします。また、4期ではがんによる症状を認めることが多く、痛みや呼吸困難などの症状を緩和するための治療も重要になります (緩和治療)。痛みに対してはモルヒネなどのオピオイドを適宜用いて痛みをとります。
再発例
非小細胞がんが再発、転移した場合は、再発した部位や、それによる症状、初回に行った治療法などを考慮して治療法を選択します。外科治療後に再度手術を行い病変の摘出を行うこともありますし、追加治療として化学療法を行うこともあります。また、骨転移や脳転移に伴う症状緩和には、骨や脳への放射線療法が行われます。患者さん毎に治療を選択していくこととなります。
2)小細胞肺がん
小細胞肺がんでは、0、1、2、3、4期などの分類以外で、限局型、進展型に大別する方法が主に使われています。小細胞肺がんは、基本的に発育が早いため、ほとんど発見時には進行性である場合が多いため、治療の中心は化学療法で、放射線療法を加えるかどうかを病気の進行度に応じて考慮していくこととなります。小細胞肺がんに対する外科治療の適応はI期のみとなるため、非常に限られた場合のみとなります。
(1)限局型 (LD: Limited Disease
とも呼ばれます)
がんが片側の肺と近くのリンパ節(縦隔のリンパ節、がんのある肺と同側の首のつけ根にある鎖骨上リンパ節も含む)に見つかる場合です。
治療
- 抗がん剤による化学療法と放射線療法の併用治療(+予防的全脳照射)
- 抗がん剤による化学療法 (+予防的全脳照射)
- 外科手術(極めて早期の場合)、その後、抗がん剤による化学療法(+予防的全脳照射)
非常に頻度は低いですが、このうちで非小細胞肺がんのI期にある症例が、手術治療の適応となります。その他の場合は化学療法+胸部放射線療法を同時併用することとなります。また、奏功例に対しては脳転移再発予防のため予防的放射線全脳照射が行われます。
(2)進展型 (ED: Extended Disease
とも呼ばれます)
がんは限局型より広がっている状態で肺の外に拡がり、がんの転移が身体の他の臓器にも見つかる場合、すなわち遠隔転移のある場合です。
治療
抗がん剤による化学療法が行われます。主病巣に対する放射線治療は併用されませんが、骨転移や脳転移などの遠隔転移による症状や苦痛を緩和したり、縦隔リンパ節転移による顔・首のはれ(むくみ)を改善する目的で、放射線療法を行うことがあります。
執筆者紹介
大瀧容一(おおたきよういち)
平成18年群馬大学卒業。
平成20年国立がん研究センター東病院外科レジデント。
平成23年より群馬大学医学部附属病院臓器病態外科学 (呼吸器外科) 医員。
平成26年より群馬大学教育研究支援センター助教。
日本外科学会専門医、日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医
清水公裕(しみずきみひろ)
平成5年群馬大学卒業。
国立がん研究センター・リサーチレジデント、国立がん研究センター東病院・がん専門修練医を経て、平成21年より群馬大学医学部附属病院臓器病態外科学 (呼吸器外科) 講師。
医学博士、研究テーマ「肺癌・縦隔腫瘍に対する胸腔鏡手術、肺癌に対する積極的区域・亜区域切除、遺伝子変異に基づいた肺癌のテーラーメイド治療」
日本外科学会指導医・専門医、日本呼吸器外科学会専門医、日本呼吸器外科学会評議員、日本呼吸器外科学会手術教育部会部員・国際委員会委員、日本臨床腫瘍学会暫定教育医、日本がん治療認定機構暫定教育医・がん治療認定医、肺がんCT検診認定医、臨床研修指導医、群馬県肺がん研究会幹事、群馬内視鏡外科幹事
(更新日:平成26年1月14日)